企業には多くの利害関係者(ステークホルダー)が存在します。利害関係者には株主、銀行、取引先など多くの関係者があります。
企業経営において、正常に機能しているかを企業の内部や外部から監視する体制が要求されるようになってきています。
企業内で発生する製品品質の偽造、会計の不正、財務内容の虚偽などを防止することや、経営者の独断による暴走を止める体制が必要です。
この監視体制の仕組み、すなわち企業統治(コーポレートガバナンス)をこれから説明しましょう。
【目次】
1 大企業と中小企業における企業統治の違い
1-1. 大企業の企業統治
1-2. 中小企業の企業統治
2 中小企業における利害関係者(ステークホルダー)の実態
3 中小企業における企業統治の取り組む始点
4 中小企業のメリット
5 中小企業のデメリット
6 まとめ
【本文】
1 大企業と中小企業における企業統治の違い
1-1. 大企業の企業統治
大企業は、出資者である株主と別な人が経営を担っています。ほとんどの経営者は株式を持っていたとしても非常に少なくいです。経営者は株主による選ばれた人なのです。
金銭的資本の提供者(株主)と人的資本の提供者(経営者)が完全に分離しています。
経営者は、企業経営の状況を株主に株主総会などで開示します。それ以外に、インターネット、新聞等で公開しています。
経営者は、株主総会で株主による監視を受けます。大会社は、株主による企業統治がなされていると言うことになります。
複数の異なる事業を営む大企業(コングロマリット)では、経営者が担当する範囲が広く、将来の見通しも多岐にわたります。
これまでの経営体質を変えて対応する必要があります。
その方法としては、専門性と視野性などから社外取締役の招聘、監査役による業務監査や会計監査人による会計監査の強化、意思決定(取締役会)と業務執行(執行役)の分離、内部統制などが挙げられます。
このようにして、株主によらず企業自体が企業統治をするようになってきています。
1-2. 中小企業の企業統治
大多数の中小企業は株式を公開せず、代表者が株式の大部分を保有している場合が多く、株主が経営を監視しているとは言えません。
中小企業では、大株主を兼務する経営者が企業統治をしているように見えますが、その実態は経営者による自己統治(セルフガバナンス)なのです。
このような状態では、経営者の主観的判断を避け、不祥事を防ぎ、公正で秩序ある組織運営をすることが本当にできるでしょうか。
中小企業にも、企業統治する体制を整える必要がありそうですね。
2 中小企業における利害関係者(ステークホルダー)の実態
中小企業では株主兼経営者であるから、利害関係者になるのは、経営者、取引金融機関、従業員の順になります。
経営者がトップなのは当然と言えるでしょう。2番目の取引金融機関は融資を受け、取引の売買代金の授受をしてもらっています。3番目の従業員は企業のために仕事をしてもらい、賃金を支払っているからです。
経営者は、利害関係者である取引金融機関や従業員に企業経営の状況をどのくらい開示しているかです。
取引金融機関には、決算書(損益計算書や貸借対照表)を提出していますが、企業経営の実績や計画は未提出です。決算書だけでは、将来のことが判断しにくいです。
従業員にはほとんど開示していません。従業員は仕事を通じて繁忙、製品出荷の状況、昇給やボーナスの度合いなどで感じています。
中小企業は、利害関係者による監視がされているとは言えません。
3 中小企業における企業統治の取り組む始点
既に図解した11原則を一度に取り組むことは、中小企業にとっては大きな負担となります。
利害関係者を金融機関と従業員に絞ることから始めたらどうでしょう。
企業内向けには企業の方向や不祥事防止のための体制とします。
金融機関向けには、説明責任やタイムリー情報開示です。
企業内向けでは、①企業理念の明確化、②全般的な行動規範、③企業倫理・法令遵守・企業統治の基本3原則の規程です。
金融機関向けでは、①経営者による金融機関への経営状況の説明責任、②年次報告書、事業計画、リスク情報などタイムリーな情報開示です。これに関しては、経営者以外の株主、取引先にも必要です。
このような情報開示の観点から企業統治の体制を整え始めたらどうでしょう。
4 中小企業のメリット
前項の情報開示と企業統治によるメリットは大きいです。
メリットを列挙してみます。
①経営陣が情報開示先を意識して経営に取り組むようになる。
②企業経営の規律が強化するので、経営の適切な判断がしやすくなる。
③金融機関からの資金調達が円滑になる。
④担保や保証に依存しない融資に取り組める。
⑤企業の信用力が向上する。
⑥企業イメージが良くなる。
情報開示と企業統治という2つの組み合わせは大きいです。
5 中小企業のデメリット
メリットがある一方で、デメリットもあります。企業の規模が小さいほどデメリットの度合いが大きくなります。
デメリットとしては、
①情報開示資料や規則作成のため時間や労力がかかる(人件費の増加、人材不足)。
②書類作成のため、税理士などの費用負担が増える。
企業として、メリットに目を向けるか、デメリットを重視するかで取り組みが変わります。
6 まとめ
3項の「中小企業における企業統治の取り組む始点」で述べたように、取っ掛かりは金融機関と従業員を対象に絞ります。その規程の内容は、企業倫理・法令遵守・企業統治の基本3原則を主体として、情報開示を含めるようにします。
これからは関連8項目に移ります。そのトップとして人権尊重です。
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